外苑前の「Ristorante HONDAリストランテ ホンダ」にて、第3回目のセミナーを致しました。
ミシュラン一つ星を7年連続獲得しているこの店でのセミナーはとても人気。今回もあっと言う間に満席です。(昨日、「ミシュランガイド東京2015」が発表され、リストランテ ホンダは8年連続の獲得)

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初めてご参加下さる方が半数近くいらっしゃいましたので、セミナーは基礎編をベースに致しましたが、大切な所だけご説明し、なるべく10月のイタリアでのお話を盛り込むことに。

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今年、イタリアのオリーブオイルの生産者が厳しい状況に直面していることを先ずお話しました。

様々な理由で、イタリアの状況は厳しかったのですが、その状況下でも美味しいオイルを生産する方々がいること。そして、美味しいオイルを作る出す生産者たちに共通していること。
撮ってきた写真をお見せしながら皆様にお伝えしました。

さて、テイスティングは5種です。

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今回使用したオイル
  1. イタリア ベネト州メッツァーネ 2013年収穫グリニャーノ種単一。500年以上続く農園。若い後継者が更なる質の向上に努めている。フルーツ系の穏やかな香りとナッツのようなマイルドな味わい。
  2. イタリア カンパーニア州セッレ 2014年収穫。ノチェッラーラ種単一。こちらも500年以上続く農園。情熱と緻密な計算により、非常にクオリティ高いオイルを産出。このオイルは非商品。2014年のまさに初絞りを生産者から頂いたもの。草をちぎった時の香り、穏やかで爽やかな味わい。
  3. クロアチア ラバック 2013年収穫ブジャ種単一。風光明媚なリゾート地にほど近い場所の農園。手摘み。収穫後ほぼ1年経ち、フルーツ系の香りとシャープだった味わいが穏やかに変化するも、高いクオリティは変わらない。
  4. 残念なオイル
  5. イタリア カンパーニア州セッレ 2013年収穫。ラヴェーチェ種とロトンデッラ種のブレンド。2番のオイルの生産者。爽やかな香りが素晴らしく、辛味もあり、非常に良いバランスが取れている。クリアな味わいも特徴。

一度のテイスティングはやはり4種以内に抑えるのが理想ですので、5種は多過ぎです。初めての方のみならず、慣れてらっしゃる方にも大変だったかと思います。
且つ、今回のオイルラインナップは、難しかったと思います。

普段、分かりやすいように強弱を付けて揃えるのですが、今回本多シェフに使って頂きたかったオイルが同じカテゴリーに属する物があり、大きな違いを感じることが難しかったはずです。

初めての方には、残念なオイルの特徴を分かって頂ければ良いと思っています。この点が、セミナーでのテイスティングにおいて最も重要なことだからです。

さて、これらのオイルを使った料理のスタートです。
honda本多シェフが、メニューと打ち合わせ時のテイスティングシートを手に、料理の説明を下さいます。皆さま、熱心に聞いてらっしゃいます。
私もこのわくわくする瞬間がとても好きです。

 

先付:聖護院蕪のブランマンジェ 加賀野菜のバーニャソース添え

食事のスタートは、足つきのグラスに入って運ばれてくる突出し。
蕪のブランマンジェには山羊のチーズのムースが添えられ、ほんの少しだけ感じる酸味と香りが蕪の甘味を引き立てます。
オリーブオイルはそれらのつなぎ役。
黒にんにくを使ったバーニャソースはグラスの縁に刷毛で塗られています。
野菜を手でつまみながら、ソースを付け、ブランマンジェをスプーンですくう。
突出し=stuzzichino(いたずら)に相応しい一品。

これには、リスト外ですが、1月のセミナーで使用した、ラツィオ州のオイルが使われています。

前菜:寒ブリのマリネ 香草風味 紅芯大根とホースラディシュのグラットゥジャート

脂の乗った寒ブリは塩で18時間マリネしたそうですが、その後抜いていますので塩気はありません。生に近いけれど身が締まっています。
脂の乗ったブリはしっかりと味を付けたくなりますが、塩味がこれだけ少なくても、ブリが美味しく頂けることに先ずは驚き。

肉によく添えられるホースラディッシュですが、ひと手間掛けているので辛味は少なく、添えられるのは香りだけ。
なんとタピオカ粉に3番のクロアチアのオイルをまぶして作ったというパウダーが掛けられています。
この皿ではオイルはふんだんに掛けたりせず、少しずつ付けて頂くと様々な味わいに変化し、楽しむことが出来ました。
オイルは添えられた調味料でした。

プリモ(パスタ):サルデーニャ産カラスミとキャベツ、白インゲン豆であえた そば粉を練り込んだタリアテッレ

今回のマリアージュ賞は、2番のオイルを使ったこの皿。
カラスミの強さとインゲン豆の柔らかさ、そば粉が入ったざらりとしたパスタの舌触り。草の香りのオイル。美味。
素晴らしいマリアージュでした。

南のカラスミの強さには、南の強いオイルをと思ったが、意外にも穏やかな2番のオイルが合った。と本多シェフ。
おっしゃる通りでした。
カラスミはもちろんですが、キャベツも強さある野菜。それをまずインゲン豆で和らげているのですが、そのインゲン豆に2014年の穏やかな初絞りオイルが非常に合うのです。

シェフに伝えていませんでしたが、この土地は美味しい豆の生産でも有名です。秋に訪問したこの生産者から、お土産にこのオイルと共に地元のインゲン豆を頂いたこと、今思い出しました。彼らの食卓には常に、豆とオイルが。

 

プリモ(リゾット):和栗のリゾット マルサラワインのソース

西洋の栗でなく、穏やかな和栗にこだわったと本多シェフ。
シンプルに炊いたリゾットの下に、和栗のペーストが隠れていました。ペーストは水と、もちろんオイルで延ばして。
上に乗った栗は、グラッセならぬ渋皮煮。これを更に揚げて、香ばしさが加えられていました。
使ったオイルはテイスティング当初より、ナッツを感じていた1番のベネトのオイル。この皿も対比やアクセントではなく、馴染ませるオイル使いでした。

セコンド(肉料理):蝦夷鹿のロースト リンゴのピューレと洋梨のモスタルダ添え

これも忘れられない美味しさです。
蝦夷鹿がとても美味。どう扱っているのでしょう。
すぐに崩れてしまうはずの洋梨は、みっしりと美味。真空にして味を入れているのだそう。
リンゴのピューレとカップチーノ仕立てには、5番のオイルが使われています。
シェフ曰く「オイルのお陰でよりピューレが強くなった。もしかしたら鹿よりもリンゴが強いかもしれない」と。
オリーブオイルには、素材の味と香りを引き出す力があります。
細心の注意を払って作られているこのオイル、香りもお味も非常にクリアです。
今回は、リンゴの香りを引き出すだけでなく、持続もさせたようです。

一葉だけ添えられたルーコラセルバチカは飾りではなく、薬味。甘味のあるソースや洋梨たちにピリリと効きます。

ドルチェ:チョコレートのニョッキ 苺のズッパとメレンゲのジェラート添え

ガレットを外して写真を撮り忘れましたが、この下に、ミントの葉がほんの少し散らされた白玉団子のようなニョッキが。口に含むと、中からチョコレートが溢れます。カカオ含有率が高いダークな物。
この苦味と、苺のつぶつぶのスープが好相性。
「子供のころ、酸っぱい苺に砂糖を掛けてスプーンで潰したイメージ」だそう。
使ったのは3番のクロアチアのオイル。フルーツの香りもするオイルです。こんなデザートにはピッタリです。


当然ながら、これらのお料理、皆様から大絶賛でした。思ってもいなかった組み合わせや、いつも食べているはずの食材が更に美味になることに、歓声や感嘆が。
本多ワールドのファンが、更に増えたようです。

ひとつ、ご説明したいことがあります。
あるご参加の方から、「今回のお料理は、ダイレクトにオリーブオイルを感じなかった」というご意見を頂戴しました。
それには理由があります。

今回のお料理は、オリーブオイルを「掛けて直接楽しむ」よりも、「料理に忍ばせて効かせる」ものでした。これは、本多シェフならではのお料理です。緻密に計算され、繊細に組み立てる料理ならでは。

パウダーにまぶしたり、ペーストやピューレに混ぜたり。
でも、いずれにも火を通していません。ゆえに、しっかりとオリーブオイルの香りと味わいが残っています。

オリーブオイルの香りと味わいを直接感じることは、もちろん楽しいですし大切です。でも、実はそれは、自宅でも可能です。
こうした研ぎ澄まされた感性を持つシェフのお料理でこそ、オイルと共に構築された料理を体感できます。

本多シェフは「難しい課題を貰った」とおっしゃっていましたが、こうした機会はシェフの感性を更に研ぎ澄ますのかもしれません。
シェフが目指す高みに、オイルを選択する者=オリーブオイルソムリエとして、遅れないように付いていかなければ。
そう感じています。

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そして、オリーブオイルソムリエとして、大切な役目は他にも。

ご参加者の方からとても嬉しいお言葉を頂戴しました。
「作り手と使い手を繋ぐセミナー」

オリーブオイルは農産物。
私がいつもセミナーでご説明することです。
素晴らしい農園であっても、先進の搾油施設があろうと、情熱があろうと、天候だけはどうしようもありません。

日照りに苦しむサルデーニャの生産者を訪問した時のことをお話ししたのですが、それ以降も彼らの農園には雨が降らなかったことを思い、つい目頭が熱くなってしまいました。

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今回、とてもお伝えしたかった、生産者の状況と彼らの情熱。

ご参加の皆様のお心に響いたようで、温かいメッセージを口頭やメール、アンケートにて沢山頂戴しました。
嬉しくて、また胸が熱くなります。

OLYMPUS DIGITAL CAMERAカンパーニア州の素晴らしい生産者。アントニーノと。2番と5番のオイルです。
OLYMPUS DIGITAL CAMERAベネト州の農園の若き後継者。ダヴィデと。1番のオイルです。

熱意ある生産者からお預かりしたオイル、それを素晴らしい料理に組み込んで下さった本多シェフ、そしてそれらを理解し、心から楽しんで下さったご参加者の皆様。
本当に素晴らしい会でした。

この素晴らしい会が出来ましたこと、心から感謝いたします。