下目黒の人気店「アンティーカ ブラチェリア ベッリターリア」にてオリーブオイルセミナーを開催しました。
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お店はこの6月に改装を終えたばかり。
広くなった厨房と、客席との一体感を得られるように変更された店内。明るく快活でありながら、リラックスできる空間です。

 

bell'italia井上オーナーシェフとはここ数年、何度もイベントでご一緒させて頂いています。
尊敬するシェフでありながらも、気心が知れた仲間のような存在で、セミナー開催には全く不安はありませんでしたが、お店でのコラボは2013年3月の第1回目以来です。
少々緊張しながらのスタートです。
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今回は、この夏に訪問したシチリアのキアラモンテ・グルフィの生産者にフォーカスしました。
そして、同じくシチリアのトラーパニの塩にも。

belita塩田から直接取って頂いた、大きな塩の結晶。これも皆さまにお伝えしたいことでした。

 

 

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先ずはオリーブオイルについての基礎知識から。何度も足を運んで下さっている方も多くいらして下さいましたが、もちろん初めての方もいらっしゃいます。
沢山お話したい事はあるのですが、収穫から搾油までの事、他のオイルと比較した話、成分、オリーブオイルのカテゴリー、残念なオイルの理由等について絞ってお話しました。

テイスティングの時間です。今回のオイルは、全て単一品種です。

今回使用したオイル
  1. イタリア ベネト州 グリニャーノ種単一。2013年収穫。バナナのような香りが特徴で、味わいは苦味も感じられるが通してマイルド。軽やかなタイプにも関わらず、一昨年の収穫とは思えない高品質をキープしている稀有なオイル。
  2. イタリア シチリア州 トンダ・イブレア種単一。2014年収穫。香りが高く、マイルドさと心地良い辛味を同時に感じられる、広がりのある味わい。
  3. イタリア プーリア州 オリヴァストラ種種単一。2014年収穫。希少な土着品種。スパイス系の香りを持ち、苦味と辛味を先ず感じるがマイルドな味わいでフィニッシュ。
  4. 残念なオイル。

テイスティング後、皆様にどのオイルがお好みだったのか伺いましたが、1番と2番に分かれました。
1も2も香りが心地良く、味わいも綺麗です。特に2番は、香りが素晴らしい上に良く立ちます。
ただ、3番も素晴らしいオイルなのです。
香り高くはっきりとした味わいの2番の次にテイスティングした為、3番のオイルの特徴を感じにくかったのかもしれません。また、この香りと味わいには、慣れていない方が多かったせいもあるのだと思います。

私もオリーブオイルに目覚め、ソムリエになった当初は、2番のようなフルーティタイプが最上と考えていました。
でも3番のオイルの良さ、これをしっかりと感じられるようになったのはこうしてセミナーで、様々なタイプのオイルを公平にご紹介するようになってからです。

さて、今回のフォーカスは2番。シチリアのキアラモンテ・グルフィのオイルです。
このトンダ・イブレア種というこの土地の品種の、その薫り高さの虜になり、オリーブオイルについてもっと知りたいと思い、ソムリエになったきっかけの品種でもあるのです。

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この夏、その地の生産者Franco Cappello氏の農園を訪ねました。
セミナーではその時の様子を写真をお見せしながらご説明。
素晴らしい生産者は、どなたも、本当にどなたも情熱をお持ちです。そして同時に、知識と経験に基づいたメソッドも。
Francoの考え方、スタイル、彼が使っている搾油所のことなどをお話しました。
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真夏の太陽が照りつけるシチリアの大地で、Francoが語ってくれたこと。これを少しでも皆様にお伝えできたのであれば、嬉しいです。
美味しいオイルには理由があること、これをご理解頂きたいといつも思っています。

さて、次はお食事です。
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今回、今までない試みを井上シェフからご提案頂きました。
シェフ自身、私のセミナーにご参加下さり、お客様の立場も経験してらっしゃいます。その経験からのご提案です。

「このお料理にはこのオイル。と、最初から決められてしまうのではなく、自分自身で最も合うものを探すのが楽しいのではないか。」

それが出来るように、素晴らしいスタイルのご提案を頂きました。

「例えばパスタならば3品用意して、一つのオイルを3品全てに掛けて召し上がってもらいましょう。用意するパスタは、合いそうな品はもちろんだけれども、敢えて、合いそうにない物も入れます。」

今までレストランセミナーを開催していて、このスタイル、ちらりと考えたことはありましたが、そんな手間も経費も掛かること、到底私からは言えません。
それが今回、井上シェフからご提案下さったのです。

何と素晴らしく、そして贅沢なセミナー料理なのでしょう!

以下がお料理です。
今回、シェフも再々おっしゃっていたように、料理にどのオイルが一番合うかは、個人の好みです。これは、私もいつもセミナーでお伝えしている事です。
クオリティ高いオイルですから、後は、皿の中のどこに合わせたいか。メインの食材でもよし、添えられた野菜でも、ソースでも良いのです。どこに合わせるか、どう食べたいかによって、合うオイルは決まってきます。

一応、私が最適と感じたアッビナメントを記しておきます。

前菜:3種の前菜<1番のオイル grignano種で>

A「リコッタチーズのオーブン焼き」
beliaチーズの水分が飛んだことで、香りとうまみが凝縮されています。そこに茄子の甘味が。チーズにまぶされたマジョラムも焼くことにより穏やかに香ります。

B「柔らかいポレンタとサルシッチャ 西洋山葵」

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ゆるめのポレンタが甘く、サルシッチャの塩気、玉葱のモスタルダの酸味。
贅沢な美味しさです。

C「ホウボウの白ワイン蒸し」
belita一旦出たのだろう甘い出汁が、ホウボウのしっかりした身に戻っています。

【オイルと合わせると、、、】
A。チーズに香りや味わいを吸収されるのか、ただ油を掛けているようでした。
B。井上シェフはポレンタには常にバターは最小限しか使わないとのことですが、オイルを掛けるとバターの香りが強過ぎるほど上がってきます。
C。最も自然にgrignanoが馴染んだのはホウボウの白ワイン蒸しでした。オイルを掛けることにより、更に味わいが深く、美味になりました。
このオイルは山のオイルです。シェフは魚は合わないのではないかと当初思ったそうです。ところが、非常に良い相性。一旦掛けたら、もうこのオイル無しでは物足りません。

プリモ(パスタ):3種のパスタ<3番のオイルolivastra種で>

A「毛蟹のトマトソース キタッラ」
belitaコクのある毛蟹の旨味が凝縮したソースに、しっかりとしたキタッラが良いバランスです。添えられたのはオレガノ。

B「バジリコペーストのラザーニア」
belita可愛らしく丁寧に重ねられたラザーニエ。バジルペーストも繊細なお味です。

C「鴨の赤ワイン煮 ガルガーティ」
belitaこれも美味なパスタでした。
買ったばかりのトルキオ(手動パスタマシン)で作られたパスタ、ガルガーティ。
これまた濃厚な鴨の赤ワイン煮をしっかりと受け止め、良いバランスです。添えられた栗も楽しいアクセント。

【オイルと合わせると、、、】
食べる前はCの鴨の赤ワイン煮に合うとばかり思っていましたが、実はBのバジリコペーストのラザーニエにとても良く合いました。
優しい味のラザーニエに、特徴ある3番の胡椒のようなスパイス系の香りが添えられることで味に深みが。
Aでは、オイルとソースが馴染みません。蟹なのか、オレガノなのか、違和感があります。
Cは、どうしたことか、オイルがただ重苦しいだけの要素になってしまいます。

実は前菜の「リコッタチーズのオーブン焼き」にこっそりと、3番のオイルを合わせていました。
これが、合うこと!チーズの酸味を拾いだし、ハーブの香りを立てる役割をはたしていました。

セコンド(肉料理):仔牛モモ肉の香草ロースト 3種のソース添え<2番のオイルtonda iblea種で>

本当に潔く、ローストのみがお皿で運ばれてきます。
塩は一切せずに焼いたとのこと。仕上げは各自がテーブルで。

別添えでソースが3種と、シチリアの塩が運ばれてきます。

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半ドライトマトペースト
フレッシュハーブペースト
バーニャカウダ
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塩とオイルだけで試してみたり、それぞれのソースを付けてみたり、オイルとソースを掛けてみたりと、様々な食べ方で楽しみます。

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店の名前にも入っている、”Braceria”とは炭火で焼くお店のこと。
流石、美味なローストです。

この美しく美味しい仔牛のロースト、これをどう食べたいか、もうこれこそが各自の好みです。
塩とオイルが一番だった。と言うご意見もありました。私も賛成。

ソースにオイルを合わせるのであれば、フレッシュハーブペーストに良く合っていました。

ドルチェ:洋梨のフレッシュ ソルベット <2番のtonda iblea種で>

先ずはソルベットだけで。次に、下に隠れているミントと。最後にオイルで。
3通りの味わいを楽しみました。

実はこの2番のオイル、梨と一緒に植えられてるエリアもあるのです。
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生産者Francoの家族は、Vittoriaで代々フルーツ農園を営んでいます。
私が見学した農園にも食べごろの梨がたわわに。その場で捥いで頂いた梨の味、甘く瑞々しく、本当に美味しい梨でした。

そのお話を写真と共に井上シェフにもお伝えしていました。
このような、イメージからの合わせ方も楽しいものです。

ドルチェ:カッフェと小菓子

この店では、食後には必ず、カッフェとこのフィナンシェが出ます。
このフィナンシェとても美味です。

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これで、今回のお食事は終了です。

新しく贅沢な試みを、素晴らしいお料理で実現できたこと、本当に幸せな体験でした。
何れの3種とも、お味にかなりメリハリがあります。これだけはっきりとしていれば、合わせる方も容易に感じ取ることが出来ます。

各お料理について、アッビナメントに関する感想を述べましたが、これが絶対の正解ではありません。ご参加下さった皆さまがお料理を思い起こす際の手がかりになったり、参加はせずともこのレポートを見る方の想像力のお手伝いになればと思っています。