麻布十番の「ラ・パスタイオーネ」にて、あるグループのご依頼でプライベートセミナーを致しました。
このお店は2015年の東京ミシュランガイドでビブグルマンにも選ばれたお店。もちろん選ばれる前から、美味しいパスタがとても評判でした。ここでのセミナーは一昨年の秋以来。私もとても楽しみにしていました。

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ご依頼くださったのは、会社を超えて公私で色々な事に取り組んでいる30代の会社員のグループ。
お食事会や勉強会などを定期的に開催しているとのこと。それで今回、オリーブオイルセミナーに声を掛けて頂いた次第です。

熱心にお話を聞いて下さいます。こうしたグループでの少人数セミナーの良い所は、臆することなく質問が出来る事かと思います。今までの疑問や、私の話から更に派生する疑問などの質問を受けました。

オイルテイスティングは4種類。
主催者の方から、特にオイルの背景や生産者のお話を是非交えて欲しいとリクエストを頂戴していましたので、昨年や一昨年にお邪魔した農場のオイルを中心に致しました。

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主催者ともうお一人以外はオイルテイスティングは初めてとのこと。中にはお酒が飲めない方もいらして、ワインテイスティングでないこうしたテイスティングが出来ることを喜んでらっしゃいました。
どんなものでもそうですが、一度にこうして数種を並べて味わい比べをすることはとても楽しいですし、普段、あまり出来ない経験かと思います。

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今回のオイルのラインナップは以下です。
※オイルの評価について
(エキストラ・バージン・オリーブオイルは農産物です。その年の気候やオリーブの樹の健康状態によって味は大きく左右されます。また、搾油後の経過時間によっても味わいは変化します。
上記のオイルの評価は、私の主観に加え、以上のような影響があることを加味した上で、ご参考下さい。)

今回使用したオイル
  1. イタリア ベネト州 グリニャーノ、ファヴォロールなどのブレンド。2013年収穫。フルーツ系の香りと、ナッツのようなマイルドな味わいの中に苦味も感じられる。500年以上続く農園。若い後継者が更なる質の向上に努めている。
  2. イタリア トスカーナ州 フラントイオ、モライオーロ、レッチーノなどのブレンド。2014年収穫。この農園のある地域はほとんどの農園が搾油を止めてしまったほどの悪状況下で、美味なオイルの搾油に成功。例年のピリリとした辛味こそ少ないが味わいのバランスが良く、香りもスパイシー。
  3. イタリア エクストラバージンオイルの表記ではあるが、香り味わい共に良い点が感じられず、ネガティブな要素が多い。
  4. イタリア シチリア州 トンダイブレア種単一。2014年収穫。この品種の特徴でもある香りの高さがすぐに感じられ、味わいには心地良い辛味があり、余韻も続く。

不動産や建築系の会社の方が多く、残念なオイルの香りを「スチのり」※の匂いとおっしゃってました。(※発泡スチロールの接着に使う糊。建物の模型作りに使用することが多いようです)

オリーブオイルの香りの感じ方は、その人の香りの記憶に依ります。こうした感じ方、とても面白いですね。しかも、この残念なオイルは化学的に調整されていると推測されるオイルでしたので、その表現、まさにその通りなのかもしれません。

テイスティングの後は、オイルの生産者についてのお話です。
1番のオイルと2番のオイルの生産者を訪ねた時の写真をスライドにし、どんな場所でどんな雰囲気の所で、どういう人たちが作っているのかをご説明しました。
その時に頂いた食事の写真なども。こうした何気ない生活の一部を垣間見ると、その商品=オリーブオイルが身近に感じらると思います。

事後のアンケートに、「オリーブオイルを大事に味わうという気持ちが持てました」とお言葉を頂きました。生産者たちの努力、苦労、情熱が、少しでも伝わったこと、とても嬉しく思います。

さて、オリーブオイルについて、食について、真剣に真面目に考えて頂いたあとは、美味しく楽しいお食事会のスタートです。

先ずは米永シェフからメニューの説明を頂きます。

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メニューのイタリア語はもちろんですが、今回日本の珍しい食材を使って頂きましたので、説明無しではどんなものか分かりません。こうしてシェフから説明頂くお話はとても貴重ですし、楽しい時間です。

前菜:里芋のヴェッルタータ 菜の花とパリエッティンと共に

裏ごしした里芋のスープ(ヴェッルタータ)に、菜の花と白カビのチーズ(パリエッティン)が浮かんでいる皿。
大地を覆った雪の中から芽と蕾が出ているようです。
先ずはそのまま頂きます。里芋の土を思わせる香りと甘味、菜の花の青い香りと少しの苦味、白カビのチーズの強い香りと塩気。これらが口の中でバランス良く溶けていきます。
ここに、1番のオイルを掛けます。
すると、爽やかな香りがプラスされ、味わいも軽やかに。これは断然この1番のオイルがあった方が美味しい一皿です。
シェフからメニューを頂いた時から、里芋とこの1番のオイルの穏やかな爽やかさとマイルドな味わいは絶対に良い相性と、思ってはいましたが、その予想を上回るアッビナメントでした。

プリモ(パスタ):香箱ガニとフルーツトマトのソース 手打ちのタリオリーニで

流石、”Pasta”の文字を店の名に冠するこの店のパスタです。素晴らしい一皿でした。
香箱ガニは、北陸地方で獲れる雌のズワイガニのこと。北陸出身のシェフならではの嬉しいチョイスです。これを禁漁寸前に水揚げし、生簀にいた最後の蟹を仕入れて下さっていました。
外子と内子の味、歯ごたえの違いを楽しみつつ、蟹肉の甘味を味わう。そこに、更にフルーツトマトの甘味が。
全ての具材とちょうどよく絡まる茹で加減のタリオリーニをフォークで掬うのは至福ですらあります。
乗せられたパセリは、ありがちな色を添えるものでは無く、このパスタに必要不可欠な香りと味わいです。
そして、このパセリを助けるのが、夏草をちぎった時のような香りがする4番のオイル。このパスタも、このオイルを掛けることで更に美味しくなりました。

シェフは、「最初にこのオイルをテイスティングした時、蟹、そして上にパセリが掛かっている絵がすぐに浮かんだんです」と。
そんなイメージを浮かべる事も素晴らしいですし、何よりもそれをお皿の上に再現出来ることが素晴らしいですね。

セコンド(肉料理):雪室熟成豚のオスティア風焼き 能登白菜と紫芋、芽キャベツを添えて

脂身が多目の豚は旨みがたっぷりで、マリネに使われた魚醤の塩気とマルサラの甘味がふわりと。添えられた野菜もそれぞれ甘味がたっぷり。

雪室熟成豚。これまた珍しい食材です。雪国では雪室を冷蔵庫の代わりに食品の貯蔵庫として使うそう。その温度が決め手なのか、貯蔵した食品の旨みが増すとのこと。
この脂身が少し多目の豚を、オスティア風(魚醤でマリネして)に焼いているのですが、高温だと焦げてしまうとのことで、低温で時間を掛けています。

これには、2番のオイルを掛けます。スパイスの香りがするこのトスカーナのオイルを掛けると、豚の脂身がさっぱりと感じます。
不思議なことではあるのですが、これは良くあることなのです。事実、皆さんそう感じていらっしゃいました。

ドルチェ:シチリア産ヘーゼルナッツのパンナコッタ

こんなに濃厚で美味なパンナコッタには、なかなかお目に掛かる事は出来ません。
香ばしいヘーゼルナッツの香りとミルクの優しい香りが素晴らしく。

ドルチェには各自好きなオイルを掛けて頂くことになりました。
イチゴに2番が合う事は検証済みでしたが、今回もやはり。ただ、パンナコッタには断然4番。同じシチリアだから、と言ってしまえばそれまでかもしれませんが、4番の持続性ある草の爽やかな香りが、濃厚で香ばしいパンナコッタにピッタリでした。