芝浦にあるイタリアン「リストランテ ラ・チャウ」にて、オリーブオイルセミナー&ディナーを開催致しました。
ピエモンテで修業なさった馬渡シェフのお料理は、素朴でありながらも洗練された美味しさ。この美味しいお料理はもちろんですが、シェフの人懐っこいお人柄がとても人気。食通が足繁く通う店です。
OLYMPUS DIGITAL CAMERA

今回は久しぶりの平日の夜の開催とあって、週末にお仕事をなさっている方や、今までご都合が合わずにいらした方に多くご参加頂きました。
初参加の方が8割ほどいらっしゃいました。
OLYMPUS DIGITAL CAMERA
ところが、LuceVerdeのセミナーには初参加でいらしても、オリーブオイルについて本を書いてらっしゃる方や、私同様にソムリエをしてらっしゃる方、オリーブオイルをお仕事にしてらっしゃる方など、かなり詳しい方々もいらっしゃいました。

緊張から始まったセミナーでしたが、私がオリーブオイルについて皆様にお伝えしたい事は変わりません。生産者の顔を思い浮かべながら、心を込めてご説明いたしました。

基礎的な知識に加え、最近ブームになっているココナッツオイルのことも。こうして他の油脂との比較をお話するには、少々化学的な事をご説明しなくてはいけません。化学が得意ではないからこそ、分かりやすく工夫してご説明しています。

テイスティングは5種。
後で好みのオイルをお聞きましたが、今回は1番と3番が人気でした。

laciau16

オイルのラインナップは以下です。
※オイルの評価について
(エキストラ・バージン・オリーブオイルは農産物です。その年の気候やオリーブの樹の健康状態によって味は大きく左右されます。また、搾油後の経過時間によっても味わいは変化します。
上記のオイルの評価は、私の主観に加え、以上のような影響があることを加味した上で、ご参考下さい。)

今回使用したオイル
  1. イタリア トレンティーノ・アルト・アディジェ州 2013年収穫。ガルダ湖北岸の生産者の団体のオイル。カザリーヴァ種単一。当初の辛味は1年経過し、柔らかくなっているが、フルーティーさはまだ保たれている秀逸なオイル。
  2. イタリア トスカーナ州 2014年収穫。フラントイオ、モライオーロ、レッチーノなどのブレンド。この地域の農園はほとんどが搾油を止めてしまったほどの悪状況下で、美味なオイルの搾油に成功。例年のピリリとた辛味こそ少ないが味わいのバランスが良く、香りはグリーンアーモンド。
  3. イタリア シチリア州 2014年収穫。トンダイブレア種単一。この品種の特徴でもある香りの高さが感じられ、味わいには心地良い辛味があり、余韻も続く。
  4. イタリア産 残念なオイル
  5. イタリア カンパーニア州 2013年収穫。ラヴェーチェ種とロトンデッラ種のブレンド。爽やかな香りが素晴らしく、辛味もあり、非常にバランスが良い。クリアな味わいも特徴。

以上のオイルを順に産地や品種、どんな生産者が作っているかなどの背景をご説明しながら特徴をお話してゆきます。
ご自身がお好きと感じたオイルがどこでどう作られているか、イメージをして頂きたいと思っています。

良いオイルを皆様にお伝えする立場としては、全てのオイルをフラットに説明するべきなのですが、やはり大好きな生産者の話にはついつい熱が入ります。

そして、今年のオイルの説明には、昨年のイタリアの悪天候に起因する収穫量の激減や質の低下が背景にあります。
昨年お宅に泊めて頂いた5番のオイルの生産者アントニーノは、毎年素晴らしいクオリティのオイルを生産しています。セミナーでは受賞歴の話はしませんが、彼のオイルは権威ある賞を毎年いくつも獲得しています。

madonna
そんなアントニーノでさえ、2014年度は自身の決めるクオリティには満たない、としてこのブランドのオイル生産を中止しました。
残念です。
彼らの苦労と情熱を、この体で感じただけに、本当に悔しく思います。その生産中止を皆様に伝える時、どうしても胸が詰まってしまいます。クールにお話することがなかなか出来ません。
課題です。

さて、オイルの説明でセミナーは終了です。馬渡シェフにメニューの説明を頂きます。
OLYMPUS DIGITAL CAMERAやはり素敵なお人柄のシェフ。にこやかにご説明下さいました。

今回のメニューはシェフと一緒に考案致しました。
セミナーの料理メニューは、当然ながらシェフにお任せしてしまうことが多いのですが、馬渡シェフは「是非一緒に考えましょう。どんなメニューが良いのかドンドンおっしゃって下さい。」と言って下さいます。
私もついシェフに甘えて、我儘を申し上げました。

このお店のランチで頂いた、驚きの美味しさのやりいかのリゾット。
5番のオイルと好相性のこのリゾットを、是非セミナーで皆様にもオイルを掛けて召し上がって頂きたい。

トスカーナの父と慕う生産者フランコと行ったレストランで、フランコのオイルをたっぷりと掛けて頂いた忘れられないラヴィオリ。
これをそっくりそのまま再現して頂きたい。

1番のオイルには早春のアクのある野菜とその野菜出汁のジュレを合わせて頂きたい。

メインの豚のローストには、オーブンで甘く焼いたトマトを乗せ、3番の薫り高いオイルをトマトに掛けてソースにして召し上がって頂きたい。

そんな我儘をシェフがお皿の上に具現化して下さり、美味しい工夫を下さったメニューが以下です。

前菜:少しだけ春を感じるお野菜のジェラティーナ

苦味やすこしえぐみもある野菜たちが本当にシンプルにお皿に乗っています。
添えられたジュレは野菜の出汁。
白いけれど少しアクもある早春の野菜をシンプルに茹で、出汁をジュレにし、1番のオイルを掛ける。
これは、打ち合わせの時からシェフと共有していたイメージでした。
1番のオイルは穏やかでありながらもフルーティな香りと、ナッツの薄皮部分のような苦味も少しあります。この苦味が春の野菜のアクに合います。
そこにシェフが塩気のある生ハムとグリッシーニを添えて下さいましたので、更に楽しい一皿となりました。

プリモ(パスタ):フレッシュリコッタチーズのラヴィオリ

もちっとする生地に甘いミルク香りのリコッタフレスカ。掛けられたパルミジャーノが塩気を添えます。ハーブもありません。本当にシンプルなパスタ。
ここへ、2番のオイルをたっぷりと、本当にたっぷりとまわしかけて頂きます。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA
美味です。シンプルなのに奥行ある味。これはこのオイルがあってこそ完成する一皿です。
最初はシンプルというより、そっけないお皿の様子に皆様は戸惑っていらしたようですし、オイルを掛けずに先ず召し上がって頂いた時は静かでした。
しかし、一旦オイルを掛けて頂くと、歓声があちこちから上がってきます。

これがまさに私が食べたかった味です。トスカーナで尊敬するオイル生産者バルディ氏が一昨年の秋、連れて行って下さったレストランで食べたラヴィオリです。
現地でレシピを聞いたわけではありません。写真と口頭でシェフにはご説明しただけなのですが、それを見事に再現して下さいました。

オイルを掛けるだけのシンプルなパスタですが、これこそアッビナメント無くしては完成しない皿です。

プリモ(リゾット):ヤリイカとフレッシュトマト、ハーブのリゾット

一度ランチで頂き、美味しさに感動したこのリゾットを、セミナー用にアレンジして頂きました。
ランチで頂いたリゾットは完成品でしたが、オイルを掛けて完成するよう、引いて頂き敢えて未完成の状態に。
オイルの香りが感じられるよう、ハーブは上に乗せずに添え、召し上がる方が段階に応じて使って頂きました。

これまた5番のオイルの力で激変します。
そのまま食べてヤリイカとフレッシュトマトの美味しさを確認して頂き、オイルを掛ける。美味しさが倍増することに、皆様から驚きの声が上がりました。

そして、最後はアクセントにハーブを少しずつ入れて頂く。
1皿で3回美味しいリゾットです。

オイルを掛けることにより味わいが倍増する。この変化はご説明し難い事です。こればかりは召し上がって経験して頂きたいと思います。

セコンド(肉料理):霧島豚肩ロースのオーブン焼き シチリアンルージュのグリル

合わせたオイルは3番。これは、豚には合わせていません。トマトのグリルに合わせています。
オイルをトマト目がけて掛け、トマトにナイフを入れるとグリルされたトマトの甘味が肩ロースの上にじゅわっと広がります。
トマトをつぶしながらオイルと混ぜ、ソースのようにして肩ロースを頂く。
OLYMPUS DIGITAL CAMERA
タイミング良く焼かれているロースの脂身をトマトの酸味がさっぱりさせ、トマトの甘味とオイルが奥行きをプラス。
美味です。

これもイメージ通り、いえ、これはイメージ以上でした。
厚めにスライスしたトマトを乗せるイメージでしたが、シェフがセレクトして下さったシシリアンルージュのような小粒なトマトを丸ごと焼く方が、旨みも水分も中に閉じ込められます。
崩してソースにするには、断然こちらです。

3番のオイルはこうして焼いたトマトに予想通りの好アッビナメントでした。

ドルチェ:レモンの香りのビアンコマンジャーレ

ふわふわのムースにはレモンピールが。
肉料理の後のお口直しにも最適なドルチェでした。これには皆さまお好きなオイルを掛けて召し上がって頂きました。

レモンと言えば南ですし、3番のシチリアのオイルが最も合うかと思ったのですが、香りが強い同士ゆえ馴染みませんでした。
レモンの香りを引き立てたのは1番のガルダ湖のオイルでした。

ドルチェ:オリーブとチョコレートのトルティーノ

寒い夜のディナーを締めたのは、熱々で供されたこのドルチェ。

周囲の生地にさくっとナイフを入れると、チョコレートムースがとろりと広がります。
laciau14
チョコレートの甘味を引き立てるのは、刻んで中に入れられている塩漬けオリーブの実。言うまでも無い好相性でした。

これにも皆様思い思いのオイルを掛けて頼んでらっしゃいました。

食後のお飲物ですが、この店のカッフェはとても美味です。
ホールを司る小川氏が淹れて下さいます。
リストランテでこのクオリティのカッフェが飲める場所、そうそうありません。
カップチーノをオーダーした方にはこんなラテアートも。
laciau15