四谷三丁目のトラットリア LA VITA でのセミナーは、これで4回目です。路地にあるこの店は、常連客や地元に愛され20年以上続いています。

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須田シェフとは気心の知れた間柄ですので、安心してセミナーが出来ます。そして、須田シェフだからこそ、今回、本当に我儘で無謀なお願いをしてしまいました。
それは、この後の料理のパートで。

今回のテーマは「新オイル ノヴェッロ」。

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11月の上旬にイタリアの生産者を訪問した際に、大切に持ち帰ってきた絞り立てのオイルをその生産者の横顔と共にご紹介し、お料理にたっぷり掛けて召し上がって頂きました。

先ずは質の高いエクストラバージンオイルが、どのようにしたら出来るのかを、スライドに映しながらご説明しました。

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ここは省けません。
なぜならば、質の高いオイルは、そう簡単に出来るものではないからです。ゆえに、質の高いオイルは、当たり前のように買えるものでは無いのです。

一般的なご説明の後は、テイスティングです。

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以下の4種類を、味わって頂きました。

 

今回使用したオイル
  1. イタリア シチリア州キアラモンテグルフィ トンダイブレア種単一。2016年収穫・搾油。DOPモンテイブレイ。2016年夏はこの地区は雨が少なかったこともあり、実が小さく収穫量も少ないと言われている。例年より辛みは控え目だが、素晴らしい香りは変わらない。トマトの香り、味わいはバナナも感じる。
  2. ★イタリア カンパーニア州サレルノ イトラーナ種単一。2016年収穫・搾油。地質者でもある生産者が栽培から搾油まで強いこだわりを持って生産。デノッチョラートと呼ぶ種抜き製法。この地域も今年は天候や害虫の影響を受けている。イトラーナの心地良い香りは変わらないが、味わいは1番と同様に穏やか。(2016年搾油オイルの日本入荷は未定)
  3. ★イタリア モリーゼ州カンポバッソ オリーバ・ネーラ・ディ・コッレトルト種単一。2016年収穫・搾油。カンポバッソ地域の土着品種。オリーブの樹はストレスが掛からないよう、十分に間隔を取って植えられている。収穫後は温度や光を極力避けている。グリーンオリーブや、アーティチョークの香り。絞り立てのオイルならでは、辛みと苦み。(購入先は下記リンク参照)
  4. エクストラバージンの表記ではあるが、1~3とは全く異なるオイル。

初めてオリーブオイルテイスティングをなさる方は、その苦みや辛みに驚いていらっしゃいました。
その辛みや苦みを質の悪い物、と誤解なさっていた方も。

テイスティング後は、オイルのご説明と、その生産者の横顔のご紹介です。

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こんな農園で、こんな搾油所で。
それだけではなく、お伝えしたいのは、彼らの日常。どこに住み、どう暮らし、何を食べ、どういう想いでオリーブオイルと関わっているのか。

だからこそ、沢山写真を撮ってきて、皆さまに見て頂くのです。

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カンパーニアの生産者 マドンナ社のアンナマリアが作った干し無花果。衝撃的なおいしさでした。

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モリーゼの生産者 ジョルジョのお宅で頂いた朝食。

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これが、今回のメイン料理として須田シェフに無理を言った、パンパネッラです。
モリーゼ州の一部の地域でのみ食べられている豚肉料理です。

日本はもとより、イタリアでも知る人が少ないこの料理、当然須田シェフもご存知ではありませんでした。

そこを無理にお願いしました。
先に述べたように、ご参加の皆様に、なるべく生産者を近くに感じて頂きたいからです。

食べたことも、それまで聞いたことも無かった料理をどこのシェフが、このセミナーの大人数分を作ってくれるでしょう。
イタリアを愛し、私のオリーブオイルとセミナーへの想いを理解して下さっている須田シェフだからこそ、引き受けて下さったのです。

写真とレシピ、そして食べた感想、モリーゼ州の生産者ジョルジョの説明、私自身が作った感想、とにかく出来る限りお伝えし、何度も試作を重ねて下さいました。
もちろん私も試食しました。

イタリア通が集まるこのトラットリアでも、この料理を食べたことがある方はいません。
皆さんの期待が高まる中、須田シェフが料理の説明をしてくださいます。

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ワインはサービス担当でもある中村さんが。
セミナーの流れももうご承知、慣れたものです。

前菜:前菜3品盛り合わせ+1品

シチリアとカンパーニアのオイルに合わせて頂いたのは、串を使った楽しい前菜盛り合わせ。

タコとセロリ。これは1番のシチリアのオイルを。
レモンやピスタチオが振りかけられてあり、1番のオイルの緑の香りと相まってとても良い香り。

イカとオレンジのシチリア風。
炭で軽くあぶられたイカが甘く、オレンジの甘みある酸味と良く合います。ここに、1番のフレッシュなオイルが美味。

ボッコンチーノの自家製トマトジャム乗せ カンパーニア風
2番の穏やかなオイルが、ジャムとチーズを繋ぎます。

ブランダクイウン
これはこの店のスペシャリテ。
リグリーリアのマンマの直伝レシピをシェフが受け継いだもの。
これにもやはりオリーブオイルは欠かせません。
お好きなオイルを掛けて頂きます。

プリモ(パスタ):スパゲッティ ウサギとイタリアトマトのカンパーニア風

これは、須田シェフが初めてカンパーニアに行った際に食べたそう。
鶏に近いと良く言われる兎肉ですが、よりしっかりとした肉質です。
強い太陽の日差しを浴びたトマトだからこそ、バランスが取れます。

ここにはカンパーニア産の2番のオイルを。温かいパスタに掛けると、より香りが引き立ちます。

:パンパネッラ モリザーナ

甘唐辛子と辛唐辛子をまぶした、岩手のプラチナポークの塊を低温でじっくりと焼きます。

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唐辛子の香りが高く、食欲をそそります。
仕上げに使う酸味と甘みをまとったプラチナポーク、美味です。

これにはもちろん3番のモリーゼのオイルを。
初めて出会う味わいに、皆さん喜んでらっしゃいました。

ドルチェ:オリーブオイルのジェラートとパンナコッタ

オリーブオイルのジェラートは何度か頂いたことがありますが、パンナコッタは初めてです。
ジェラートよりも、ダイレクトにオリーブオイルが感じられます。

ここには、理由があり、スペインのオイルを掛けて召し上がって頂きました。


以上で料理は終了です。

ドルチェに、「スペインのオイルを掛けて召し上がって頂いた」理由ですが、この日、スペインの有名なオリーブオイル生産社「カステージョ デ カネナ」社のロサ・バーニョさんが、セミナーにお客様として参加下さっていたのです。

今回のセミナーでは、イタリアの新オイルを訪問した時の様子を含めてご紹介すると、決めて資料を作成し、料理も決定後でした。
彼女のオイルをラインナップに入れる事は出来ませんでしたが、せっかくの機会でしたのでご挨拶頂き、お持ちになった2016年搾油の新オイルをテイスティングさせて頂きました。

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質の高さと規模が両立するとても有名な会社です。
お客様の中には、オリーブオイルソムリエさんも何名かいらして、もちろんバーニョ氏をご存知で、ここで会えたことに、皆さまとても喜んでらっしゃいました。

バーニョ氏がご参加下さるとわかった時、少し悩みました。

11月に訪問した生産者とオイルを主役に据えている今回、こうして有名な生産者を紹介し、彼女の素晴らしいオイルもテイスティングしたら、主役が変わってしまうのではないか。。。と。

でも、こんな機会、滅多にありません。
オリーブオイルが好きで集まって下さる皆さまには、是非ご紹介したい方です。
それに、私のセミナーはあくまでも、ご参加下さる方々の為にしているのですから。

インポーターさんを通じて、「お客として参加したい」と言って下さった彼女に、私の方から、挨拶とテイスティングをお願いしておきながらも、不安を覚えつつ当日を迎えました。

 

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しかし、バーニョ氏は素晴らしかった。そして、ご参加の皆様も。

私は、自分自身の器がいかに小さいかを思い知りました。
挨拶を下さった時、彼女はこうおっしゃってました。

「イタリアのオイルについて知る、良い機会でした。良いオリーブオイルにイタリアもスペインもありません。こうして素晴らしいオリーブオイルが広がる場があることは本当に素晴らしい事です。」

確かに、バーニョ氏を良く知る方は彼女と写真を撮り、Facebookに掲載してらっしゃいました。当然です。オリーブオイルの世界では有名人ですから、自慢もしたくなります。
案の定、写真を見た方は、カステージョ・デ・カネナ社のセミナーと勘違いなさってました。

 

でも、大切なのは、「この場に居た方」です。
このセミナーに足を運んで下さり、私の一方的な話を聞いて下さり、一緒に美味しい食事を楽しんで下さった方々。
来て下さった方々が大切であり、外の方たちではありません。

 

実はこの翌日に、バーニョ氏と、インポーターの酒見氏との会食があったのですが、その時にもセミナーの様子について、感想を頂きました。

「あなたのそのオリーブオイルに対する情熱と愛が、あそこに居るすべての人に伝わり広がって行くのを私はこの目で見て、本当に感動したの。素晴らしい時間だったわ。素晴らしい。」

思わず目頭が熱くなる言葉でした。


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毎年、ノヴェッロのセミナーは、イタリアで生産者たちと過ごして帰ってきたばかりで開催します。どうしても熱が入りますし、その時の情景と想いが強く込み上げてきます。

今回は特に、モリーゼ州のコッレ・ダンジョ社のタマーロ家について、お伝えしたいことがありました。

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9月末に来日し、新宿伊勢丹の催事や、私ともセミナーをして下さった彼ら。
とても仲が良いご夫婦です。大変な時期も一緒に乗り越え、お互いを思いやる姿を間近に見ました。

 

彼らの家と、農園は車で1時間ほど離れています。

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オリーブオイル繁忙期は、搾油所を出るのが夜中。それから1時間掛けて自宅へ。
そして、朝は6時にまた家を出て、農園へ。
肉体的にも非常にきつい仕事の上、往復の運転。これを繰り返す日々なのです。

何故、農園の近くに住まないのか。

それには理由があります。

地震です。2002年の地震の爪跡がまだ残っているのです。
彼らの住まいはもともと農園のそばにあるのです。が、建物がまだ安全と認定されず、住むことが許されないのです。

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オリーブオイルを作るのは「人」です。
人には、いろいろな事が起こります。
毎年毎年、決まったように美味しいオリーブオイルが出来る保証は全くないのです。

 

そんな事もお伝えしたかった、今回のセミナーでした。

私の想いをしっかりと受け止めて下さったご参加の皆様、ご協力下さった方々に、心から、心からお礼を申し上げます。

 


ご協力頂いたみなさま