ラ パスタイオーネでのセミナーは、貸切を含めこれで4回目。
今回もあっという間にお席が埋まり、12名の皆様とスペシャルな時間を過ごしました。

先ずは小冊子にしたテキストを使った座学から。
オリーブオイルの世界は日々進化を遂げていますので、テキストも随時更新しております。
そうした新しい情報をお伝えしながら、本物のオリーブオイルはどのようなものであるべきで、どう作られ、どう販売されているのか。エキストラバージンオリーブオイルの定義など。これらを軸にお話しを致しました。

お話の後はテイスティングです。
今回、何度もご参加くださっている方々に混じって、初参加の方が数名いらっしゃいましたが、その方々が食に敏感であることを存じ上げていましたので、テイスティングのオイルにいつもと違った趣向を取り入れました。

今回使用したオイル
  1. スペイン カステーリャ・ラマンチャ州 2016年収穫搾油。アルベキーナ、ピクアル、コルニカブラ、マンサニージャのブレンド。子供のころから本物を。という理念で作られたオイルだが、子供=マイルドで食べやすい、という味わいではなく、早摘みの実を使った苦みと辛味がきちんとある。緑の葉、例えば茶葉をちぎった時のような香り。
  2. 米油にエキストラバージンオリーブオイルを混ぜたオイル。(米油は「ドレッシングにおすすめ」と謳っている商品を使用)
    エキストラバージンオリーブオイル由来の香りはするものの、口に含むと油っぽさがあり、べたべたした味わいが口中に残る。
  3. イタリア サルデーニャ州オリエーナ 2016年収穫搾油。ボザーナ種単一。有機栽培。乾燥した大地で育つボザーナ種はポリフェノール値が高いことが特徴。夏草やハーブのさわやかな香り。クルミの渋皮のような渋味と苦み、辛味もあり、バランスが取れている。ナッツの甘みも感じる。
  4. イタリア カンパーニア州ベネベント 2016年収穫搾油。オルティチェ種単一。4世代続く生産者が伝統を踏まえつつ、新しい知識と技術を取り入れている。グリーンアーモンドやピーマンなどの濃緑の野菜の香り。味わいも強く、苦味と辛味がかなりある。

この2番のオイルが、今回の新しい試みでした。
このオイル、まずいわけではありません。上に記したように、混ぜているエキストラバージンオリーブオイルの香りもしますし、残念オイルのように酸味を感じたり、悪臭があるわけでもありません。
敏感な方でも少し油っぽい。と感じる程度でしょう。これを、マイルドで美味しいオイル、と感じる方がいてもおかしくありません。

テイスティングが済み、オイルの詳細をご説明する前に1~4番のオイルでお好きだったものに挙手いただきました。
2番に手を挙げた方は、なんと皆無。

これほど的確に質の高いオリーブオイルとの違いを評価下さったことは、非常に嬉しい驚きでした。

これらのオイルを使った米永シェフのお料理のスタートです。
その前に、シェフから料理説明をいただきます。


今回も、セミナー前には米永研究室が登場しました。
店のキッチンは研究室。
セミナー料理を考案するために、空いている時間はすべて試作に費やし、スタッフは毎日試食だったそう。


打ち合わせの時から、作りたい料理をいくつもおっしゃっていた米永シェフ。
普通の営業では出来ないような、「攻め」の料理や、「珍しい」料理、「冒険」した料理を作りたい。

もちろん、その料理を勝手に作るだけでは、オリーブオイルセミナーの料理にはなりません。オイルとの相性を整えなくてはなりません。
作りたい料理、食材、オイル。
だからこそ、料理を考えることは、数倍大変だったかと思います。

「考えるの、本当に疲れました。でも楽しかったです!」
とおっしゃる米永シェフ。

前菜:前菜1つめと2つめ

右:イタリア栗と赤鶏タタキ リコッタチーズのタルタル
左:鮪トリッパとキタアカリのアラビアータ風トマト煮込み

リコッタチーズを使ったタタキのタルタル(右)がクリーミーで、時折甘い栗が。食事のスタートにぴったりの優しい前菜です。
ここに4番の苦く辛いオイルがアクセントとなって、好相性でした。

鮪のトリッパ(左)は少し強め。
1番のオイルを。トマトとの相性も良いですし、トリッパの臭みを消すハーブの役目もしています。
3番のオイルも好相性でした。香りを添えつつ、煮込みの味にすっと馴染みます。
そして、不思議なことに、3番のオイルはテイスティング時よりこのトリッパの煮込みに掛けた時の方が香りが立ちました。

前菜:前菜3つめ イカとセロリの鮎魚醤のサラダと、黒ポレンタ・フレスカ

これが美味しくて、驚きました。
ポレンタはイカ墨で黒くなっています。上に乗っているのがイカとセロリ。
潮の香りのポレンタは塩気と甘みが。セロリとイカのコンビも最強です。シャキシャキと美味。

とても変わった料理に見えますが、米永シェフの修業時代、フリウリ州のレストランでは、こうしてポレンタの上にイカとセロリのサラダを乗せていたそう。

ただし、ポレンタをイカ墨で黒くしたのは米永シェフのアイディア。
これも当初から考えてらしたメニューです。

使ったオイルは3番のサルデーニャオイル。イカとセロリをマリネしています。ぴったりです。
オイルは少し使っているだけにも関わらず、しっかりと香りが立っていました。これも不思議です。
これ以上オイルを掛けなくて良い。そう思わせます。
イカ墨の香り、イカやセロリの香りが、オイルの青い香りを増幅したのでしょうか。

プリモ(パスタ):自家製タヤリン グリルしたアナゴとジロール茸、クレソンのソース

定評ある手打ちのタヤリン。アナゴの香ばしさとジロール茸の香りが深く、クレソンが清涼感を添えます。美味しいパスタです。
一見、これで一つの料理として完成のように思えますが、そこはしっかり「抜き」があり、このままではどこか物足りません。
そして、オイルを掛けると完成。
オイルがすべての香りと味わいをまとめ、引き上げるのです。

1番のオイルか3番か。
これは好みで分かれるでしょう、と当初思っていたのですが、意外なことにあの辛味苦味が強い4番のオイルが、とても良く合いました。
アナゴの焦げにも、茸の土の香りにも、クレソンの辛味にも。

プリモ(パスタ):自家製カポラータ 真ダコとケッパーとトマトのタコ飯仕立て

これも美味!
つぶつぶのパスタは、リゾーニともフレーグラともラサとも違う味わい。それがしっかりとタコの出汁の旨みを吸い、トマトの酸味をアクセントに炊いたパスタならではのとろみを纏っています。
ここには、1番か3番。
これこそ、好みです。お好きなオイルをたっぷりと掛けて召し上がって頂きました。

これは、打ち合わせの時から決まっていたパスタですが、初めて聞くパスタ名。シチリアのパスタだそうです。
米永シェフがタコ飯を北陸で召し上がった際に、オリーブオイルを掛けたくなったそう。
そこから、このタコ出汁で炊いたパスタが出来上がったわけです。

プリモ(パスタ):自家製ガルガネッリ エゾ鹿と焼きポロ葱の赤ワイン煮込みソース

鹿肉を、ポロ葱のとろみと水分が補い、飽きのこない非常に美味なパスタ。普段通り、ソースの強さとパスタの強さのバランスが絶妙です。

鹿のラグーと思われるかもしれませんが、想像とお味は少し違います。隠し味が使われているせいかもしれません。

ここには4番を。強い料理には強いオイルを合わせるのが定番です。咀嚼が長くとも、辛味の持続性がある4番オイルならば受け止められます。
3番のオイルも好相性。4番を掛けた時に比べると、全体がまろやかになります。

ドルチェ:紅茶のラッテ・イン・ピエディと白桃のレモンマリネ 黒イチジク

濃いめの紅茶のラッテ・イン・ピエディ。しっかりとした甘さです。
これに驚くほど良く合ったのが、1番のオイル。
もともとこのオイルは茶葉の香りがします。生の茶葉をちぎった時の香りです。

先ず1番のオイルの緑茶の香りが広がり、次にラッテ・イン・ピエディの紅茶の香りが立ちます。
この流れが面白いくらいにはっきりと感じられ、そしてもちろん美味。
美味しくて、面白くて、何度もスプーンを運んでしまいます。

意外性でいえば、今回のアッビナメント大賞はこれかもしれません。

ワイン:ワイン4種

Raventos Rose Brut
I Frati 2016
Aglianico 2009
Moscato di Pantelleria

ワインは篠原オーナーが厳選してくださった4種。
いずれも主張し過ぎず、料理を引き立てるワインです。


上の写真の白ワインも美味でしたが、この赤ワインがとても美味。
3番目の鹿のパスタに合わせるのが王道なのでしょうが、篠原氏は2番目の「タコ飯」パスタがまだ皿にあるうちにサーブ。タコに合わせるアリアニコ。流石です。
パスタ単体で頂くより、このワインがあるとタコの香りがグンと上がり旨みが引き立ちます。美味しいアッビナメントでした。


どれもこれも、美味しく、素晴らしい料理でした。
伝統と独創性があり、もろちんオイルがあって完成するオリーブオイルセミナー料理でした。

一期一会の料理。
とは、米永シェフがセミナーで毎回おっしゃることです。
通常営業では出しませんともおっしゃいます。普段の営業の流れではこのクオリティを保ったまま出すことが難しいそうです。

テーマとなる3種のオイルに合わせながら、シェフが作りたかった料理を、その時の食材で作る。
今日、この日の為だけの、この場に居合わせた皆様の為だけの、本当に贅沢な料理です。

メニューを考える大変さのほかに、もうひとつ。
ここまでは許されるかな。これ以上の冒険はしないほうが良いかな。
と、料理を食べる人の事を忖度するのもシェフの苦労だったようです。

こうした会にご参加下さる方々は、好奇心がとても旺盛でいらっしゃいます。食だけでなく、様々なことに。
シェフが渾身の料理を作れば、頂くほうも、全身を傾けて心して頂く方々です。

不要なシェフの気苦労とも思いますが、でも、そうして食べる人の事を考えながら作るからこそ、美味しい料理が完成するのでしょう。

 


この店ならではの、パスタ尽くしと、肩ひじ張らない心地良さ。
今回も良い会にして下さった、ご参加の皆様に改めて感謝いたします。ありがとうございました!

次回は少し趣向を変え、この人数でしかできないスタイルのセミナーを開催したいと考えています。

またどうぞお付き合いくださいませ。


ご協力頂いたみなさま