梅雨の土曜日、神谷町のダ オルモにてオリーブオイルセミナー&ランチを開催致しました。

通常のセミナーに加え、生産者を迎えてのセミナー、あきたシャポンのセミナーと、バリエーションに富んだダ オルモでのセミナー。
今回は、食事とオリーブオイルのペアリングにフォーカスした内容でした。


普段からレストランでのセミナーは常にペアリングがテーマではありますが、今回はそれを更に追求致しました。
まるで、食実験室のようでした。

これから24名のコース料理を出すとは思えないほど、整然且つ美しい厨房。
普段と変わらない静けさです。ここから繰り出される料理の詳細は後述致します。

先ずは、セミナーからスタート。

初めての方と、何度も足を運んで下さっている方の半々くらいでした。
常に課題は、初めての方にきちんとお伝えすることと、何度もいらして下さる方に、新しい情報をお伝えすること。

2018年のオリーブオイルの状況や、輸入国である日本のことなどについてもお話しながら、質の高いオリーブオイルはどう作られているのか、それをどう運び、保管し、私たちは使えば良いのか。そんなお話を致しました。

今回も素晴らしいオイルをセレクトすることが出来ました。

今回使用したオイル
  1. イタリア リグーリア州インペリア。2018年収穫・搾油。タッジャスカ種単一。7haに1300本というとても小さな生産者。樹齢100年を超える樹もあるが、剪定を注意深くすることにより良い実を収穫。通常、タッジャスカ種のオイルは実が熟してから収穫されることが多く、マイルドな物が多いが、このオイルは緑の実を搾油することによりキレの良いオイルに仕上がっていする。グリーンアーモンドの香り、辛味と苦味は強くなく穏やか。
  2. スペイン アンダルシア州グラナダ。ルシオ種単一。7世紀に北アフリカからもたらされた、平均樹齢400年のルシオ種を1万haの広さで有機栽培。この地域だけの品種。中には樹齢1000年を超す樹もある。緑の香りの中に、熟す前のベリー系の香りが存在するのが特徴。マイルドな味わいの中に、心地良い辛みと苦みがアクセント。
  3. イタリア シチリア州 トラーパニ。チェラスオーラ、ノチェッラーラ・デル・ベリーチェ、ビアンコリッラ、コラティーナのブレンド。オリーブ有機栽培の先駆者。品種毎に出来を確認しながらベストな搾油方法を取り、ブレンド率を決める。トマトの葉や、草原の草などの爽やかな香りが高く、キレの良い辛味と苦味を持つ。
  4. エキストラバージンオリーブオイルとして売られているが、酢のような香りがする。心地良い緑の香りは無い。

テイスティングが終了した段階で、お好みのオイルを伺いました。
それぞれに手が挙がりましたが、1番と3番が多かったように思います。

そして、これからが面白いところ。
テイスティング後には一番人気でも無かった2番のオイルが、お帰りの際にお求めになる方が多く、無くなってしまいました。
要は、2番のオイルが料理と出会って「化けた」ということです。

これこそが、オイルと食事の魔法です。
何度も言っていますが、オイルは飲物ではありませんし、オイル単体では存在価値は無いに等しいものです。
料理と一体となってこそ、真の価値が見えてきます。

そして、オイルの為の料理を作って下さった北村シェフからメニューの説明を頂きます。

相変わらず、多くを語らない北村シェフ。でも、端的且つ的を射たお話に聞き入ってしまいます。
「今回はオイルとの相性を見てもらう為に、素材そのままのような物もあります。他にも普段はちゃんとオイルと馴染ませてお出ししているのに、今回はそのままで、罪悪感を感じます」と。
それは、この後の料理写真を見て頂くとお分かりかと思います。

メニューを見て想像しながらわくわくするところへ、原品ソムリエからワインの説明も頂きます。

「梅雨ですし、すっきりしたいならばこれ。最初の桃の前菜に合わせるのならば、これ。2皿目の鮎の前菜まで飲んでゆくならばこれ。。。」

個人的にも原品ソムリエのワインペアリングがとても好きです。こうしたプレゼンテーションも素晴らしく、オリーブオイルセミナーであることを忘れてしまうほど、わくわくしてしまいました。

さて、お食事のスタートです。
皆さまには料理ごとにメモを書いて頂けるよう、シートをお渡ししました。それに書き込んでもよし、そんなことせずにただお食事を楽しんで頂くもよし。

前菜:桃とブッラティーナ

まさに、食材をそのまま。
ここにオイルを掛けると・・・
1番はチーズと桃が具合よく馴染み、
2番は桃の香りと味わいが強くなり、
3番はチーズと桃の両方のバランスがちょうど良く際立ってきます。
どれが一番とは言えません。お好み次第です。

前菜:鮎の炭火焼きと、焼き茄子のうるかと蓼風味

鮎は炭火で完全に火を通すと、パサつきがちなので、オーブンと併用だそう。
そして、焼き茄子が添えられていることが大きなポイント。

オイル変化が幾通りにも楽しめます。
鮎と言ってもワタの部分からタンパクな身の部分まで、味わいがかなり変わります。
身の部分+茄子で合わせると、、、
1番は茄子の青々しさが上がり、
2番は鮎が甘くなり、
3番はトマトを添えているよう。

苦味の強いワタ。好きな方は1番のオイルを絡め、苦手な方は3番のオイルのハーブ感で臭み消し。

プリモ(パスタ):甘鯛のラサ

大好きなラサをセミナーでもリクエストしました。
オリーブオイルとの相性を探る意味でも、打ってつけの一皿です。

1番はオイルが持っているグリーンアーモンドの香りが前面に出ます。
2番は皿の中のひとつひとつの素材が、それぞれとても良い感じに引き立ち、更に纏まります。
3番はオイルの辛味が残ります。

予想では1番が良く馴染み、3番がアクセントとして使うのにピッタリかと思っていたのですが、2番の相性の良さに驚きました。

プリモ(パスタ):スパゲットーニ トマトソース

本当にシンプルなトマトソースを太目のスパゲットーニで。
ここまでシンプルなものは初めてですし、これこそ北村シェフが「このままでお出しして良いのか、、、」と躊躇なさった皿。
でも、そのお陰でそれぞれのオイルとの相性を的確に探ることが出来ました。

1番はトマトの甘みが増し、更にマイルドに。
2番はシンプルな一皿にグンと奥行が出ます。
3番はオイルが持っているトマト系の香りと味わいに、トマトの酸味が立ちます。

これもお好み次第。正解はありません。お好きな組み合わせで楽しむものです。

セコンド(肉料理):シストロン産仔羊のロースト 塩茹で野菜添え

フランス プロヴァンスのシストロンの仔羊は、羊の香りがしっかりします。
それでいて、羊が苦手な方にも食べて頂けた一皿。
シェフがお席を回ると、「左腿ですか右ですか」なんて質問も。

1番はオイルのグリーンアーモンド香がアクセントになり美味。
2番は仔羊にすんなり馴染みオイルの姿が消えたようでした。
3番はオイルの香り高さが、仔羊にハーブを添えたようです。

普段こうしたローストには野菜もローストしたものを添えてらっしゃいますが、今回はオイルを楽しむ為に、シンプルに塩茹で。
でもこの茹で野菜がまた美味。
それぞれのオイルで楽しみました。

ドルチェ:アロス・コン・レチェ

名前の通り、スペインのデザートです。
今回スペインのオイルを使用すると決めた時に、シェフに提案させて頂きました。
上に乗っているのはホワイトチョコではなく、カカオバターです。

2番のオイルはベリーの香りがします。きっと甘い物との相性が良いと話していたら、シェフがカカオバターをお持ちと。

スペインで頂く重いものでは無く、サラリとしたスープ仕立てのアロス・コン・レチェに、カカオの香り。
ここに2番のオイルは想像通りのベストマッチでした。


もっとも印象的なペアリングを挙げるとするならば、ラサと2番のオイルでしょうか。
鯛も自家製ドライトマトもパスタも、それぞれの食材をくっきりと形どりながら全てを調和させる。
素晴らしいアッビナメントでした。

2番のオイルは食材をぐっと持ち上げる力があります。
オイル単体でテイスティングした際には、まさかここまで料理を「上げる」オイルとは思ってもいませんでした。

それは皆さまも実感したご様子で、前述のようにお帰りの際にお求めになる方が多かったのです。

以上が、まるで「研究室」のようなランチタイムでした。
とは言え、堅苦しいお勉強モードだったわけでなく、原品ソムリエがセレクトしたワインを添えられ、更に、同じテーブルの方たちとの美味しい楽しい話が添えられて。
皆さま本当に楽しそうに過ごしてらっしゃいました。

ペアリングにフォーカスし、心行くまで楽しめたのは、北村シェフの潔い料理とその度胸のお陰です。

「本当に色々省いて、一見不味そうに見えてしまうかもしれません。」とシェフ。

普段から皿の見栄えの為の物は一切乗せない方ではありますが、今回は焼いたまま、茹でたままで、美味しそうな「艶」すら省いて下さいました。

オイルセミナーとは言え、適量のオイルがあります。それを厳密に考えて下さった結果です。

今は皆さん写真を撮りSNSに投稿します。それを考えても「素っぴん」の皿を出すことは勇気のいることと思います。

北村シェフのこの度胸のお陰で、私たちはペアリングを追及出来た訳です。

 


カウンター席は、特等席ですね。
美しい厨房で美味しい皿が完成する様をじっくりと観察できます。


テーブルで、「初めまして」の方々も、「またお会いしましたね」の方々も、グループでいらした方々も、一様に美味しいオイルと、美味しい食事がもたらす時間を堪能して下さっていました。
ご自身の感想と周囲の方の感想が合えばそれは楽しいし、違っていてもその違いが面白いのです。


今回、レストランセミナーご参加通算20回目の方がいらっしゃいました。
私のレストランセミナーを初期から今までずっと見守り続けて下さっています。
御礼をしながらも、目頭が熱くなってしまいました。

こうして何度も足を運んで下さっている方がいらっしゃるからこそ、セミナーの内容をブラッシュアップしようと心掛けることが出来ます。
気に入って下さる方がいるからこそ、より楽しくより充実したものになるように努力することが出来ます。

セミナーが一旦始まったら、会を作るのは私ではなく、ご参加の皆さまです。いつもいつも良い会にして頂き、本当に感謝しております。
これからも「繋ぐ人」として、セミナーを続けて行きます。どうぞよろしくお願い致します。


ご協力頂いたみなさま