外苑前の「Ristorante HONDA」にて、第7回目のオリーブオイルセミナーを開催致しました。ミシュランの星を獲得し続けていらっしゃるこの店でのセミナー、何度開催させて頂いても、背筋が伸びます。
人気のお店ゆえ、あっという間にお席が埋まりました。

 

参加者のお一人でオリーブを沢山育ててらっしゃる方が、オリーブの枝を朝切ってご持参下さいました。
オリーブオイルセミナーにぴったりの、とても嬉しい差し入れです。

今回のテーマは絞り立ての「ノヴェッロオイル」
10月に訪ねた小豆島、中部イタリアの新オイルをその時の写真と共にご紹介。そして、お料理はもちろんこれらのオイルを前提に考えて頂いたもの。

先ずは、セミナーからスタート。
初参加の方から通算10回以上のご参加の方、今回も様々な方がいらしてくださいました。
ご満足頂けるよう、新しい情報を混ぜながらお話します。

そして、テイスティング。
以下の4種をテイスティング頂きました。

今回使用したオイル
  1. 日本 香川県小豆郡小豆島町 ルッカ種単一。2019年収穫・搾油。2006年に山の草刈りからオリーブ栽培を始めた生産者。それ以降、畑を広げつつ、質を向上させている。手摘み収穫した後、丁寧に選別した実を搾油。若草やマジョラムの柔らかい香り、シナモンなどが広がる。口当たりはまろやかで、辛みと苦みはほとんど無く、穏やかな味わい。
  2. イタリア モリーゼ州カンポバッソ オリーバ・ネーラ・ディ・コッレトルト種単一。2019年収穫・搾油。コッレトルト地域の土着品種にこだわっている小さな生産者。オリーブの樹はストレスが掛からないよう、十分に間隔を取って植えられている。収穫後のカゴは温度や光を極力避け、数時間のうちに搾油。グリーンオリーブや、グリーンアーモンド、草をちぎった時のような香り。味わいはグリーンオリーブ由来の苦みと辛味がある。
  3. エキストラバージンオリーブオイルにあるべき新鮮な植物の香りがせず、酸味を連想させる香りと、後まで残る嫌な苦味がある。
  4. イタリア アブルッツォ州キエーティ イントッソ種単一。2019年収穫・搾油。アペニン山脈で2番目に高い山の麓で冷涼な気候と石灰土壌をアドバンテージに良質なオリーブを育てている。搾油からボトリングまで徹底してコントロールし、質の高いオイルを生産。青りんご、茄子など、様々な緑の香りが調和する香り高いオイル。味わいは辛みと苦みのバランスが良く、アーモンドの甘みも感じる。

今回もお好きなオイルに挙手頂きました。3番は皆無でした。
テイスティング中から、3番に対して「油っぽいわね」「植物の香りがしませんね」という声が上がっていたのを耳にしました。

良いオイルと共に、そうでないオイルも覚えて頂くのもこのテイスティングの目的です。

テイスティング後は、写真を見て頂きながら生産者のご説明です。
畑や樹の様子、搾油所、搾油機、ボトリング、生産者と過ごした時間。
先月訪問したばかりですから、写真を見ながら私もまだその場にいるように感じます。
生産者たちの情熱や思い、その結果であるこのオイルを皆さまにお伝え出来て、嬉しい限りです。

ここでお話は終了。お待ちかねのランチがスタートです。
コースの前に、オリーブの塩漬けが登場。

実はこれは先のオリーブ枝を持ってきて下さった方が、ご自分で漬けたもの。塩を抜いて食べやすい状態にしてくださっています。
輸入物のオリーブ漬けとは全くの別物です。オリーブの実もしっかりしていて、美味。

 

先付:茨城産 飯沼栗のズッパ

栗の甘みあるスープの中に、酸味あるフレッシュチーズが一匙隠れています。周囲にたっぷりと1番のオイルが。
甘味と酸味、生ハムの塩気、1番のオイルの爽やかな香りがアクセントになり、栗の甘みとの対比でテイスティングではあまり感じなかったオイルの辛味まで感じます。
完璧に調和する一皿。1番のオイル無しでは成り立たないかと。

前菜:島根産ハマチのカルパッチョ イクラ、四万十の米麹

これまた素晴らしい一皿。熟成させたハマチの絡みつくような歯応えと、魚醤で仕込みながらもマイルドな味わいのイクラ。アサリ出汁と米麹の甘みが加わっています。
そこに、1番のオイルをこれまたたっぷりと。先ほどはアクセントになっていましたが、この皿では個性ある素材をうまく纏める役に。

プリモ(パスタ):猪肉のラグーのタリアテッレ 白インゲン豆、春菊

良く煮込まれた猪肉はフォークで崩れます。とろけるような脂身が美味しいこと。しっかりしたタリアテッレとぴったりです。
オイルは4番を。肉とパスタに、ハーブが添えられたようです。
春菊との相性も良く、色々な野菜と食べているかのよう。
肉単体に掛けるのであれば2番も美味。
ご参加の方々も色々試していらっしゃいました。

セコンド(魚料理):ズッパ ディ ペッシェ クエ、うちわ海老、大粒あさり

魚介のスープが美味しいこと。うちわ海老の火入れも絶妙。技術が成せる、繊細セコンド。
オイルは2番を。この土地では普段から魚介を良く食べます。訪問時にもこうした魚介スープとこのオイルを合せてレストランで頂きました。
2番のオイルの為にお願いした魚介料理ですが、完璧でした!

スープはこのように、本多シェフ自ら注いでくださいました。
目も舌も楽しく美味しい一皿。

ドルチェ:洋梨のババとコンポート 奥出雲の薔薇の香り

薔薇の香りが漂う、高貴なドルチェ。ババ、コンポート、ムースがゼリーで包まれているのですが、そのゼリーにも薔薇のエキスが。
ここに合わせるのは2番のオイル。
試しに4番を掛けてみましたが、その香りがかえって邪魔に。
2番をここに掛けると、不思議なことに、あったはずの自らの香りを消して薔薇の香りを引き立てます。


この後は、焼き立ての香り高いヘーゼルナッツのフィナンシェと、それぞれお好きな飲み物を頂いて、残念ながらランチは終了です。

この店のセミナーで、毎回思います。
このまま食事の時間が終わらないと良い。と。

本多シェフのお料理は「食材一つ一つを丁寧に掬い上げ、皿の上に一つの世界を造る」ようなイメージです。
オリーブオイルセミナーの時は、オイルを一つの食材として捉え、他の食材とのバランスを取ってらっしゃいます。
だからこそ、このオイル無しでは、、、と思う料理があるのです。そうそう体験出来る事ではありません。

食後に、小豆島の生産者 高尾氏と電話を繋ぎました。
今日の1番のオイルの高尾農園さんです。

テイスティング後の生産者紹介で、皆さまにはすでにご紹介済みですので、質問タイムを。
「オリーブオイル生産していて、一番後悔したこと、一番嬉しいこと」
「ご自宅ではどのように召し上がっているのか」
etc

高尾氏からは「感想を」と求められ、ご参加のお一人が代表して素晴らしいご意見を述べて下さいました。
「香りは良くて味わいはマイルド、和食に本当に合いそう。イタリアのオイルのようなきついイメージが無く、優しいオイルですね」と。

高尾氏も生産者の例にもれず、あまり多くを語らない方です。
でも、その場の雰囲気をリアルタイムでご覧いただき、ご参加の皆さまの笑顔と「美味しい」を沢山聞くことが出来て、きっと嬉しかったと思います。

「美味しい」と聞いた時が、オリーブオイルを作っていて一番嬉しい時だそうですから。

 


オリーブオイルを搾油している最も忙しい時期に、お邪魔をしてしまう「オリーブ旅」
繁忙期の生産者への遠慮、公共交通機関がほぼ無い例えばイタリアの田舎の山、しかも初めて出向く場所へ一人で行く事、重い荷物をこれまた一人抱え移動する事。
プレッシャーや心配も沢山ある「オリーブ旅」ですが、質の高いオイルを生産する方たちの情熱と思いを直接感じ、畑も樹も搾油機も自分の目で見ることが、セミナーで伝える上でとても大切と思っています。

それを理解下さっている方々がいらっしゃり、旅から帰ることを待って下さっていることが原動力です。
そして、こうして伝える場を与えて頂いていることに感謝しています。

この後、生産者の方々にフィードバックをして、一つの輪が完成です。これからも沢山の輪を作ります。

最後になりましたが、お忙しい中、ご参加下さった皆さま。
本当にありがとうございました!


ご協力頂いたみなさま