世の中の状況が大きく変わってしまった2020年。
年に数回、レストランやトラットリアでセミナーを開催していましたが、2020年は見送り、2021年も無理かな、、、と思っていたところへ2021年内駆け込みで開催の運びとなりました。

この状況前、最後にイベントをしたのも「ラ ヴィータ」でした。
イタリアの、トスカーナの下町の雰囲気を色濃く持つ店。イタリア愛に溢れるオーナーシェフ。

そして今回も、生産者の所で食べた料理の再現という無理なお願いを。いえ、無理ではないですね。須田シェフは完璧に再現して下さいました。

料理の事は後のパートで詳しく。

先ずは今年のイタリアの状況を。IOC国際オリーブ協会や、イタリアの農業組合サイトなどからデータを抜粋してご説明しました。

2020年と比較するとマイナスこそ避けられたようですが、とにかく北から南まで異常気象に悩まされた2021年。

南地方は干ばつ。中部や北部は、細かいゾーン毎に全く違う理由から、減産がほとんど。ヴェネト州やロンバルディア州は9~10割減。
ということは全く無し、ZEROということです。

会社員が一年間働いたにも関わらず「業績悪かったから今年は給料無しね」と言われるようなもの。受け入れることは出来ませんよね。

でも、それを受け入れなくてはならないのが農業。切ないですね。

普段セミナーは、ちゃんと立ってご説明するのですが、今回はノヴェロ会。ちょっとした収穫祭のような物なので私もリラックスしてお話しました。

ミニ講座の後は、今年の貴重な絞り立てオイルのテイスティング。

セミナーに何度もご参加下さっている方が多くいらっしゃいましたが、間が2年も開きましたので、テイスティングはなかなか難しかったかと思います。

今回使用したオイル
  1. 2020年収穫・搾油。イタリア ヴェネト州ヴェローナ。この土地の土着品種、グリニャーノ、レッチーノ、レッチョデルコルノをメインにしたブレンド。ヴェローナ郊外の山の中腹で5世代に渡りオリーブオイルを生産する。現在の当主は30歳代で、年々搾油スキルを上げ、クオリティも毎年上がっている。香りは穏やか、バランスが取れた味わい。食材を邪魔することなく良さを引き立てるオイル。搾油後既に1年経っているにも関わらず、素晴らしいクオリティ。残念ながら2021年は春の落花、夏の落果と天候による不運が続き、今年の搾油は断念。【NOSTRAN / Verzen】
  2. 2020年収穫・搾油。スペイン アンダルシア州ハエン。ピクアル種単一。2,000ヘクタールもの広大な農園を持つからこそ可能な、収穫シーズンの初日の収穫の実だけを使った最上位ライン。収穫時の気温を見ながら、日中の暑さを避け夜間に照明を付けてナイト・ハーベストをする。また収穫した実は一旦冷却した後に搾油。ステンレスタンクはもちろんの事、ボトル1本ずつに窒素充填していることや完全遮光瓶ゆえ、出荷時の質を保つ。フルーツの香り、味わいは緑茶などを感じる。これまた1年経っているが、搾油仕立てと間違うほどの爽やかさ。【PICUAL First Day Of Harvest / Casteill de Canena】
  3. ノヴェッロ。2021年収穫・搾油。イタリア トスカーナ州シエナ。フラントイオ、モライオーロ、オリヴァストラ・セッジャネーゼ等のブレンド。シエナ郊外の日当たりと水捌けに恵まれた丘陵地帯で、毎年バランスの取れた質の高いオイルを作り出す生産者。丁寧に有機栽培された実を機械+手摘み収穫後、数時間以内に搾油。2018年から自社搾油所を設置し、より質を高めている。濃緑の葉、アーティチョークなどの香り。旨みのような甘みや味わいを感じ、最後に心地良い辛味を感じる。【Bardi / Carraia di Bardi Franco】
  4. ノヴェッロ。2021年収穫・搾油。イタリア シチリア州ラグーザ。この地域の土着代表品種トンダイブレア種単一。この土着品種にこだわり、暑いシチリアの大地でオリーブの樹に無理させることなく、果樹等と一緒に自然に育てている。栽培方法は昔からの伝統を守り、搾油はオリーブオイルの世界で先端の技術と化学知識を取り入れている搾油所に依頼している。他社の搾油所ではあるが、収穫後数時間以内の搾油を実現。トマトの香りが高く、アーモンドのまろやかさの中に少し辛みがある。【Novello di Pantaleo / Terre di Pantaleo】
  5. ノヴェッロ。2021年収穫・搾油。イタリア モリーゼ州テルモリ。オリーバネーラコッレトルト種単一。イタリアスローフード協会でも有名な生産者。この品種を始めとし、忘れられた希少品種を大切に育てる彼の農園にはオリーブ研究者の見学が後を絶たない。その人格ゆえ多くの人から信頼され愛されている。先端の知識・技術をベースに、何よりも自然のままの大地と樹を大切にすることが彼のオイルのクオリティを高めている。通常はフィルター済みオイルのみを生産するが、今回のこのオイルは初のノンフィルターの試みとしてのサンプル。オリーブの葉や実、グリーンアーモンドなど、しっかりとした苦みと、辛みがある。【Oliva nera colletorto / Colle D'Angio(Tamaro)】

ご覧のように、実は2020年搾油のオイルも2種入っています。
「このうちどれとどれが、今年のオイルでしょう」と質問しましたが、全問正解した方はいらっしゃいませんでした。
この意味はお分かりでしょうか。

要は、搾油後1年経っていても、今年の絞り立てと遜色無いクオリティということです。
これは生産者が質に配慮した作り方をし、輸入業者が適正に保管した結果に他なりません。

そして、ここで余興。
今日の生産者の写真を見ていただき、誰がどのオイルの生産者か当てるクイズ。全問正解者にはちょっとした景品を用意。

場所だけお教えして、後はカンです。お二人が正解。素晴らしい!
Aが①の生産者、Bが④、Cが②、Dが③です。⑤のオイルは当日の飛び入り参加だったので、選択肢には入っていません。

ここまででテイスティングは終了。

キッチンからは既に、美味しい香りが漂ってきます。
今回も須田シェフにはわがままを言いました。シェフが食べた事も無い料理を、私の感想と写真、そして生産者から貰った非常に簡単なレシピ。これだけで再現下さいました。

先付:フェットゥンタ

シンプルなパンをこれまたシンプルにカリッと焼いたもの。
ブルスケッタと呼ぶことが多いかと思いますが、トスカーナではフェットゥンタと呼びます。
少し焦げ目がついています。焦げを避ける方も多いのですが、このちょっとした焦げが絞りたてのオイルのグリーンな香りとマッチしてとても美味。

前菜:3種盛り合わせ
  • ブランダクイウン(干し鱈とジャガイモの温前菜)
    ヴェネチアなどヴェネト州ではバッカラ・マンテカートと呼びます。これはシェフが訪問したリグーリア州のマンマ直伝。ヴェネチアのと違い、ジャガイモが入るのが特徴です。
    ①のオイルを元々使っていますが、ここに更に掛けて。①のオイルは乳製品やジャガイモとの相性が非常に良いのです。「この料理には欠かせない」とシェフも仰います。
  • 水蛸とフィノッキオのスピエディーニ
    歯ごたえある水蛸とフィノッキオを軽く焼いてあります。ここには④のオイルを。④のオイルは高い香りが特徴。しかも、噛み応えのある食事でも最後までその香りを保ちます。
  • 茄子とラグーザチーズ
    焼いただけですが、チーズの濃厚な香りと塩気が茄子と合い、ここにやはり④のシチリアオイルをたっぷりと。オイルは塩気を和らげる働きもします。
プリモ(パスタ):バルディ家レシピのマッケローニ・アル・スーゴ

「バルディ家のラグーが一番美味しい」と豪語している私。
須田シェフにも、このラグーを作って頂きたいとリクエストしました。
もちろん③番のバルディオイルをたっぷりと。
バルディ家の食卓で食べている味です。素晴らしい!

この地方ではパッパルデッレではなく「マッケローニ」と呼ぶそう。そして、ラグーではなく「スーゴ」。
スーゴとはソースの意味です。もう、パスタソースは肉のラグーと決まっているかのようです。

セコンド(肉料理):鶏とジャガイモのロースト

これもバルディ家の食卓メニューです。
飼っている鶏をつぶして、庭の薪オーブンで焼いてくれます。これもシンプル。ゆえに、肉と焼き方が非常に大切。ソース等に逃げられない。
これも③番オイルは間違いありませんが、お好みで良いかと。

シェフは色々な鶏を試し「オリーブ鶏」を見付けたそう。しっかりとした肉質で、鶏を食べている感がします。以前食べたあきたシャポンに似ていました。

ドルチェ:スキアッチャータ・アッラ・フィオレンティーナ

本来、このお菓子はカルネバルの時期の物。暦によって変わりますが、だいたい2月末から3月上旬。
これも実はバルディ家で頂いたもの。朝食用にルチェッタさんが焼いています。その時はこうした粉糖や飾りは無く、シンプルにバットで焼いただけのもの。

バターでなく、オリーブオイルを使っています。しかもノヴェッロオイルを。贅沢なスキアッチャータです。

③番のオイルを掛けても良いですし、④番の香り高いシチリアオイルを掛けても美味。


須田シェフは他レストランでのオリーブオイルセミナーに何度かご参加下さっています。

料理はオイルを掛けて、変化を楽しみたい。そんな気持ちを理解下さっているので、全て料理はオイル無しか最小限で仕上げてくださっています。
オイルを掛けて完成する料理です。

見た目は極々シンプルですが、味わいはとても深い。そんな料理を皆さま楽しんでくださっています。

 

お食事の後は、イタリアの生産者と中継です。
③番の生産者、カッライア・ディ・バルディ・フランコと約束をしていました。残念ながら、当主フランコは農園に訪問客がありその案内中とのことで、孫のアンドレアが対応してくれました。

フランコはもう、色々なことをアンドレアに任せています。搾油のノウハウはもちろんですが、こうした広報系の事はもっぱらアンドレア。HPやSNSもアンドレアの担当。

フランコの訛の強い言葉と違い、アンドレアの言葉は聞き取り易く助かります。イタリア語を話す方もいらして、会場からも質問が次々と出ます。

「今年は確かに量は少し減ってしまったけれど、質はキープ出来たと思う」との言葉。その通りだと思います。毎年変動する状況の中で、質の高いオイルを作り続ける彼らは凄いと思います。

生産者中継はこれで終わりの予定でしたが、①番のヴェネト州の生産者ヴェルゼン社のダヴィデと連絡が付き、急遽中継することになりました。
先日も実が無いオリーブの樹をビデオ通話で見せて貰ったばかりでした。「この樹には1個だけしか無いなあ」と。
今回も、農園を回りながら状況を説明してくれました。

最初にご説明しましたが、ヴェネト州はオリーブ結実と成長の重要なタイミングにピタリと合わせたような不運な気象のせいで、生産量がほぼゼロ。このダヴィデの所も今年は全く搾油出来ませんでした。今まで多くの生産者とお付き合いしてきましたが、全く生産出来なかったというのは、初めての事です。

今年生産できなかった生産者との中継。今回一番意味のあることだったと思っています。

もう「例年通り」が通用しない世界的な気候変動。でも、大地と繋がるオリーブ栽培は天候不順から逃れることは出来ません。
気温、雨、乾燥。大金を投じて灌漑設備を設けることは出来ても、太陽の光や風を通しながら、雨を遮るドームは流石に作ることは出来ません。結局は気候に左右される運命です。

毎年美味しいオリーブオイルが私たちの手元に届く事は、大袈裟かもしれませんが、もう奇跡に近いのかもしれません。
そんな考えも皆さまにご理解頂けたかと思います。


2年ぶりのレストランでの会。
シェフも、そしてご参加の皆さまも久しぶりのこうした会を楽しみにしていて下さったとのこと。
後に、「やはり集まっての会は良いですね」とお言葉を何名かから頂戴しました。まだまだ今後の状況は不透明ですが、出来る限りこうした会を開催していきたいと思います。

最後になりましたが、ご参加下さった皆さま。改めて感謝致します。
写真を快く提供くださった方々。ありがとうございました。


ご協力頂いたみなさま
  • Trattoria LA VITA ラ・ヴィータ:今回も一方的な料理リクエストをお聞き頂き感謝しています。まさに田舎の生産者の食卓の再現。ありがとうございました。
  • AZ. AGR. CARRAIA DI BARDI FRANCO:Andrea,Grazie per il tempo significativo.
  • VERZEN:Dvide,Grazie per la bella chiamata. Speriamo che andrà bene prossimo anno.